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登録日:2024年11月25日

社労士・求職者それぞれの視点から見る固定残業代のポイント
社労士試験教材で詳しく言及されることは少ない固定残業代ですが、社労士実務においては相談を受ける機会が非常に多く、社労士としての腕の見せ所です。
一方、社労士試験合格を機に、もしくは社労士試験への挑戦を見越して転職を検討している場合、労務に関する知識を持って求人情報を確認することで、求人票の解像度がぐっと上がります。

今日は、社労士視点と求職者視点の両面から見た固定残業代についてお伝えします。

固定残業代とは

あらかじめ想定される法定時間外労働に相当する割増賃金を基本給に組み込む、もしくは別途固定残業手当などの手当で支給するものです。

基本給に組み込む場合、基本給のうち固定残業代に相当する金額、時間数を明示しなければならず、別途手当で支給する場合、その手当が固定残業代である旨、相当する時間数を明示しなければなりません。

また、いずれの場合も固定残業代に含まれる時間数を超過した時間外労働に対する割増賃金は別途支給する旨の明示も必要です。

固定残業代の計算方法

例えば、時給単価が1,500円の従業員に対して、30時間分の残業を固定残業代として支給する場合、いくらになるでしょうか?

計算式:1,500円×1.25×30時間=56,250円

上記の金額がこの例での固定残業代の最低ラインとなります。

時給単価の計算方法

時給単価とは、割増賃金を計算するにあたって日給・月給で定められている賃金を1時間当たりの賃金に換算するものです。
日給制の場合
計算式:日給÷1日の所定労働時間

日給制の場合、所定労働時間が固定の場合がほとんどです。そのため、その固定の所定労働時間で割れば時間単価が計算できます。
まれなケースではありますが、日によって所定労働時間が異なる場合は、後で説明する平均所定労働時間を用いて時間単価を計算します。
月給制の場合
計算式:月給÷1か月の平均所定労働時間

土日祝が休みの場合をイメージすると、月によって平日の日数は異なるため、所定労働時間も月によって変わります。
そのため、時間単価を計算する際は年間を平均した1か月の平均所定労働時間で割ります。

平均所定労働時間の計算方法

ここからは時間単価を計算するために必要な平均所定労働時間の求め方をお伝えします。
日給制の場合
所定労働時間ごとに次の計算を行います。

計算式:1日の所定労働時間×年間の所定労働日数

これらを全て足し合わせたものを年間の所定労働日数で割ると1日の平均所定労働時間が求められます。
月給制の場合
365日-年間休日×1日の所定労働時間÷12ヶ月

割増基礎賃金から除く賃金

固定残業代に限らず割増賃金を正しく計算するために必要な知識ですが、割増賃金の基礎に含めないものは次の7つ、労働基準法で勉強しましたね!

①家族手当
②通勤手当
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
なお、①~⑤について、これらの名称に当てはまればいい、というわけではありません。

これらは実態に沿って支給されるものに限られますので、上記手当であっても次のような場合は割増賃金の基礎に含めないといけません。

・扶養親族に関わらず一律で支給される家族手当
・家賃に関わらず一律で支給される住宅手当 など

さて、ここまで固定残業代の前提となる割増賃金の計算方法のおさらいでした。
ここからは固定残業代を社労士・求職者の両視点から見ていきましょう。

社労士視点で見る固定残業代

まずは社労士視点で固定残業代を見てみましょう

良い点

●給与計算がシンプルになる

固定残業代に含まれる固定残業時間以下の残業であれば給与額は変わりません。
特に顧問先が自社で給与計算を行っている場合で、エクセルや手計算ならこの恩恵が非常に大きいです。

気を付けないといけない点

●意図せず未払い賃金が発生する恐れがある

基本給その他固定給が変動する度、割増基礎賃金も見直したうえで固定残業代に不足が生じていないか確認する必要があります。
給与計算を受託していない顧問先が、給与を増額したものの固定残業代がそのままで意図せず未払残業代が発生していた、というのはよくある話です。
給与計算・社会保険手続きも併せて受託していれば社労士自ら確認できますが、そうでない場合は特に注意が必要です。

求職者視点で見る固定残業代

次に求職者視点で固定残業を見てみましょう。

良い点

●毎月の固定給が底上げされる

本来割増賃金たる残業代はその勤務実績に応じて支給されるため、毎月の給与総額に変動が生じます。
一方で、固定残業代として支給されることがあらかじめ示されている場合、本来変動する残業代を固定給として受け取ることが出来るので、基本給が低い場合に特に大きくなる収入面での不安が軽減されます。
これは事業主視点からも同様で、固定給を高く表示できることでより多くの求職者に自社の求人に興味を持ってもらうことが期待できます。

気を付けないといけない点

●残業が前提となっている

もちろん、固定残業代の支給はその時間分の残業を義務付ける直接的な効力はありません。
しかしながら、固定残業代を支給しているのだから残業して当然だ!と考えている会社・事業主は少なくありません。
例えば翌日で間に合う仕事であっても残業して終わらせないといけない、という空気感をある程度想定しておく必要があります。

●残業させ放題と勘違いしているリスクがある

冒頭でお伝えした通り、固定残業代はあらかじめ決められた時間数についての割増賃金であり、超過分は別途支給が必要です。
しかし、固定残業代=残業させ放題、と思い込んでいる会社・事業主も少なくありません。

固定残業代についての正しい知識が大切

固定残業代は社労士としてはもちろん、社労士業務に興味がある求職者としても正しい知識を持ってその是非を見極めることが大切です。その上で、特に選考の際には自身の印象を悪くすることなく、適切な運用がなされているか確認することも重要です。面接でどのように聞けばいいか、などお困りの際は是非とも弊社サービスの担当者へご相談ください。