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登録日:2025年02月10日

労務管理が社労士試験の範囲に含まれるワケ
労務管理と聞くと、社労士実務に携わっている者としては就業規則の整備、適切な勤怠管理、給与計算、社会保険手続きや労務相談など、社労士業務全般を指すイメージが強いと思います。

一方で、社労士試験に向けて勉強中、もしくは試験勉強を経て、実務に携わる前の段階だとイメージが異なるのではないでしょうか。

今日は「労務管理」をキーワードに、社労士として労務管理に強くあるべき理由をお伝えします。

社労士試験では優先度が低い労務管理

冒頭でお伝えした通り、社労士業務の全体を指して使われることもある労務管理ですが、ここで社労士試験における労務管理について思い出してみてください。

社労士試験においては、労働に関する一般常識に位置し、テキストのページ数もそれなりのボリュームであったはずです。しかしながら、社労士試験で出題されることは極めて稀で、多くの対策講座においては深入りせず、テイラーが唱えたのは科学的管理法、アージリスは職務拡大を唱え、職務拡充と混同しがちな職務拡充を唱えたのはハーズバーグ、と提唱者と提唱内容ぐらいは覚えておきましょう、ぐらいだったことでしょう。ここ数年は落ち着いたものの、労働一般と言えば選択式試験において重箱の隅をつつくようなマイナーな出題が連続し、社労士受験生の鬼門となっていたため労務管理が手薄になるのもなるほどという印象です。

余談ですが、筆者の通っていた資格講座では、職務「拡」大は「アジ(アージリス)の開き(拡大)」、職務拡「充」は「ハンバーグ(ハーズバーグ)ジュージュー(充実)」と教わり、今でもすぐに思い出せるあたり、語呂合わせの恩恵は計り知れないです。

さて、このように、社労士試験では優先度を下げざるを得ない労務管理ですが、社労士実務ではどう関わってくるのでしょうか。ここから先は、「労務管理」は社労士試験勉強で言うところの労務管理を指すものとして読み進めてください。

法令知識だけが社労士の武器ではない

個人的な考えではありますが、社労士として活動していると、社労士の業務は大きく2つに分けられます。そこで、法令について熟知していることはもちろんですが、労務管理に強いと、社労士業務に携わる者としてキャリアアップが見込めると考えています。

具体的にお伝えします。

ひとつは労働関連法令を正しく解釈し、法令違反のない就業規則の整備、就業規則に基づく給与計算など、「正しく」行う必要がある業務です。社労士に限らず、法律に携わる専門職の役割のひとつとして、法令に難しく書いてあることを分かりやすい言葉で伝えるというミッションともいえるものだと考えています。

もうひとつは法令によらない、これまでに得た知識や経験を踏まえ、「より納得しやすい」アドバイスが求められる業務です。ここで言うアドバイスは、法令の解釈によるものもありますが、それよりも法令のみで対応できない相談ごとに対するアドバイスを指します。

例えば、次のようなケースでは、社労士業務に携わるものとしてどう対応しますか?

「求人を出してもなかなか募集がなく、人手不足で負担が大きくなったベテラン従業員からも退職の相談がちらほら出てきている。どうしたらいいでしょうか?」

とある飲食店の経営者からこのような相談が寄せられたとします。

求人について、職業安定法を調べて、違反した記載になっていないか確認しますか?それとも最低賃金を下回っていないか確認しますか?

こういった、「従業員に関する悩み」に法令知識で対応するにはどうしても無理があります。それよりも、「どういった求人票ならそこで働いてみたいと思えるか?」「業務の負担が増えていても辞めずに頑張ってもらうにはどうすべきか?」など、法令によらない部分にどれだけ思いを馳せたうえでより良いアドバイスが出来るかという場面で社労士業務に携わる者の差が出ます。

労務管理は納得度の高いアドバイスのみなもと

こういった場面で、「競合他社よりも時給を高く設定しましょう!」「退職を思いとどまるように給与アップを検討しましょう!」とアドバイスしたとしたらどうでしょう?正直誰でも思いつきそうな回答で、頼りないという印象を抱かれるのが目に見えています。

こんな時、労務管理に強いと仮説にもとづくアクションを提案でき、アドバイスの納得度合いがぐっと高まります。例えば、先ほど名前が出たハーズバーグは職務拡充の他にも「動機づけ・衛生理論」を提唱しました。これも理論の名前だけは覚えている人が多いのではないでしょうか。

「動機づけ・衛生理論」はざっくり言うと、働く上でのモチベーションアップには待遇アップよりも不満の解消のほうが効果的であるという理論です。

これを先の相談に当てはめると、次のような仮説が立てられます。
・募集が来ないのは時給が理由ではなく、お店を利用したことのある求職者が不安に感じることがあるのではないか?
・確かに負担は増えたが、その中で何が理由で、何が変わったことにより退職を申し出る決意に至ったのか?

こういった仮説に基づいて経営者にヒアリングをしたところ、
「お店が飽きられないために季節ごとの新メニューに力を入れているが、そのオペレーションに不十分な点があるのは否めない」といった回答を引き出すことが出来ました。

そうすると、新メニューでバタバタする調理場を実際に見たかもしれない求職者へは、「新たに採用する方には調理補助からスタートしてもらい、徐々に業務に慣れてもらえるようにサポートします」と求人票へ記載することで、不満ではないですが、マイナス要因を解消できるかもしれません。

また、ベテランの従業員に、「新メニューのオペレーションが経営者からの一方的な提案で、実際に作業する従業員の意見をそもそも聞いていない」との回答を得られれば、自分たちの意見が聞き入れられないという不満が解消されれば退職を思いとどまる余地が残るかを見極め、従業員の意見を取り入れたオペレーションの改善に取り組むことが出来ます。

このように、労務管理に強いと労務管理を知らない場合よりもより深く問題への決策を検討することができます。

労務管理こそキャリアアップのチャンス

労務管理に強いことは社労士業務に携わるものとして大きな武器になります。また、試験勉強では優先度が低くじっくりテキストを読むこともなかったかもしれませんが、試験勉強の枠から一歩離れて、社労士業務に携わる者としてのトレーニングとして読み返してみると興味深い内容であることにも気付けるはずです。知識が増えることは多くの人にとって喜びを感じられることであり、それが自身のキャリアアップにつながるならよりやる気も出そうですよね。本コラムが社労士試験のテキストを引っぱり出すきっかけになればうれしい限りです。