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登録日:2024年12月25日

【年末特集】話題の「扶養の壁」をマスター 第3回:103万円の壁引き上げ
前回より年末特集と題して、「扶養の壁」をテーマに連続コラムとして3回に分けてお送りしています。
第1回は税法上の扶養、特に最近話題の103万円の壁について解説しました。
第2回は、こちらもまた最近話題の106万・130万円の壁について解説しました。

いずれもまだお読みでない方は先にリンク先のコラムをお読みいただくと今回の内容の理解度がぐっと増しますので是非先にお読みください。
【年末特集】話題の「扶養の壁」をマスター 第1回:103万円の壁 【年末特集】話題の「扶養の壁」をマスター 第2回:106万円・130万円の壁
年末特集ラストとなる第3回は103万円の壁引き上げ議論について解説します。

前回までのおさらい

103万円の壁
103万円の壁を超えると
①本人に所得税が発生する
②配偶者の所得税が高くなる

でした。
106万円・130万円の壁
130万円の壁を超えると
①配偶者の社会保険の扶養に入れない、扶養から外れる
②自身がパート先で社会保険に加入し保険料が天引きされ、手取り額が減少する

でしたね。

さらに、社会保険適用拡大前の条件で従業員のうち51人以上が社会保険に加入しているパート先の場合、106万円の壁を超えると
①自身がパート先で社会保険に加入し保険料が天引きされ、手取り額が減少する
②130万円の壁を超えていなくても、①で社会保険に加入するため配偶者の社会保険の扶養から外れる

でしたね。

103万円の壁引き上げ

さて、そろそろ今回の本題に入ります。
今回は、これまた連日報道で取り上げられている「103万円の壁引き上げ」にスポットを当てお伝えします。

現在103万円の壁引き上げについて2つの案が並走しています。ひとつが「178万円」、もうひとつが「123万円」です。
178万円への引き上げ
先に提示されたのが、国民民主党が主張する178万円への引き上げです。178万円という金額は、現在の基礎控除48万円+給与所得控除55万円=103万円の壁が設定された1995年(平成7)年から約30年間の最低賃金の伸び率73%を根拠に算出されたとされています。

当時、今でいうところの最低賃金の全国加重平均611円でした。全国平均なので地域によりバラつきはあるものの、年間103万円を平均最賃金をもとに週の労働時間に換算すると30時間強となります。現在まで続く103万円の壁が出来た当時、会社員の配偶者を持つパート労働者の扶養の目安は週に30時間程だったわけです。

週に30時間といえば現在の50人以下の事業所での社会保険の加入基準であり、かつ配偶者の扶養に入るための130万円の壁の一部ですね。

それが、2024年の最低賃金の全国加重平均1,055円で計算すると165万円弱になります。最低賃金の平均額が30年ほど前と比べて73%上昇している一方、103万円の壁はずっと不動だったわけです。その結果、税法上の扶養内で働くことを希望するパート労働者が実際に働ける時間は年々短くなったことが昨今の働き手不足の背景にあるのは間違いないでしょう。

そんな状況を打破すべく、いわゆる働き控えに加え、生活に必要な費用を配慮の上、消費活性化を目的に掲げ、103万円の壁引き上げ議論が始まりました。

ここで、前回までの記事を読んでいただいた方ならピンと来たと思いますが、103万円の壁が178万円に引き上げられたとすると、社会保険法上の扶養の壁である130万円の壁と順番が前後するとこになります。確かに税法上の扶養の壁は引き上げられたものの、130万円の壁を超えてしまうと(厳密には給与収入が年間130万円以上になると)パート労働者本人が社会保険に入り、かつ手取り額が約15%減少してしまうこととなり、178万円まで引き上げられた税法上の扶養の壁も実質は130万円の壁としてパート労働者の前に立ち塞がることになります。
123万円への引き上げ
そんな中、自民党と立憲民主党が新たに打ち出したのが123万円への引き上げです。123万円とする計算根拠は、これもまた103万円の壁ができた1995年から約30年間の物価上昇率とされています。

今のところ123万円への引き上げが優勢のようで、178万円に引き上げたときと比べた場合の税収減や消費の縮小割合については言及しませんが、現状130万円の壁がそのままである以上、社労士という観点からは123万円への引き上げのほうがよりなるほど、と思えるのが正直な意見です。

103万円の壁引き上げだけではない?

今回の特集では触れることができませんでしたが、現在進められている議論の中では特定扶養控除額の見直しも検討が進められています。これまで主に配偶者の扶養にテーマを絞って解説してきましたが、税法・社会保険法いずれにおいても扶養の範囲は配偶者のみならず子どもや父母、祖父母まで含め広範にわたります。その中でも、19~22歳の大学生世代の場合、103万円に27万円プラスの130万円が税法上の扶養の壁であり、その子に所得税が発生しない場合、扶養する親は配偶者控除の38万円よりも25万円高い63万円の特定扶養控除を受けることができますが、こちらについても引き上げが検討されています。

このように、103万円の壁の引き上げだけにとどまらない税制大改革に向けた議論からしばらくは目が離せそうにありませんね。

さて、年末特集と題して扶養をテーマにとりあげ3回にわたってお送りしてきましたがいかがでしたでしょうか。本特集の企画時点から税制改革についての議論が進み、住民税等予告していた内容を網羅できなかった点、またの機会に詳しくお伝えできればと思っています。本特集では分かりやすさを重視し、厳密な言及を避けてきたところも多々ありますが、税法については社労士の専門分野ではないものの、給与計算・社会保険と密接に関連する分野ですので、当コラムが今後社労士としての活躍を見据える方々の視野を少しでも広げることに貢献出来ていればうれしい限りです。